摘要: |
『節』思い立ち,文庫本片手にふらりと旅に出る。人は,たとえばそうやって過酷な日常と決別し,甘美な非日常の世界に身を委ね精神の平衡を保つ。その心的な境目にある物的な施設が交通の結節点,ターミナル。乗物の始発·終着や同種·異種の交通手段への乗り継ぎのための拠点だ。その形態には,鉄道,バス,航空機,船舶用など大小様々ある。日々そこでは多くの人·物·金·情報が渦巻き,まれには招かれざる闇の輩やウィルスが暗躍する。乗降や乗換え客,見送りや出迎え客,時に懐かしい出会いが,時に悲しい別れが待ち受ける。そう,そこはドラマの舞台でもある。その場所,その交通の『節』目の存在こそが,人に心の物語を紡がせる。ターミナルは異界への玄関口。人は,その入口で勤め人から旅人へと姿を変え日々のくびきから己を開放する。また出口では,再び勤め人に戻るため浦島太郎よろしく現実社会に順応するよう身構える。さても,世界が未だコロナ祸から脱せずにいるこの時代,こんなたわいない変身願望すら思うにまかせない。気がつけば秋草·虫の音·ァキアカネ,そしてどこまでも青く澄み渡った高い空。ああ!もう秋,できるなら心置きなく,いい日旅立ち,してみたい。 |