摘要: |
私が防災に取り組むようになつたのは,平成16年新居浜豪雨災害がきっかけで,当初は数理的なアプローチで,局所的な豪雨が孤立点を生み出すとともに,情報が集中するハブ的な存在が生み出されていたことから,ボーズアインシュタイン凝縮のマスター方程式を使って,避難情報の集中と伝播現象を定式化することに集中していた。こうした取り組みは,非定常な行動モデルの枠組み構築を目指す私自身の行動モデル研究の基礎となるとともに,桑原雅夫先生を代表とする科研基盤Sのプロジェクトの中で,災害発生下で時間割引率が著しく低下し,繰り返されるマイオピックな経路変更とグリッドロックの閧係解明にむすびついていく。理論研究は,交通研究の王道とも言えるし,朝倉が長年取り組んできたネットワーク信頼性に関する研究や,Daganzoたちの避難ネットワーク研究倉内らの施設配置研究,河瀬·浦田·井料らの人道的支援に関する研究など,さまざまなバリエーションへ発展を遂げつつある。今後,定常と非定常をつなぐ研究として,越·赤羽·桑原によって示された過飽和と飽和の連鎖といった微視的機構の創発や福田·森地による社会的相互作用のような全体と部分の関係解明へと展開していくのではないか。一方でスペイン風邪や首都直下地震を経由して繰り返される超長期的観点に立った行動規範の変容研究こそが常襲性を有する災害に対する防災研究に向けて意味を持つのかもしれない。 |