摘要: |
コングロマリットと呼ばれる巨大企業体は,その傘下でたくさんの子会社たちが多種多様な事業活動を行なう。それぞれの擁する子会社の事業領域がいくつかの分野で重複している状況を想定したとき,ある分野での攻撃的な振る舞いは,他の分野での報復を招いてしまう懸念がある。これと同様のことは,単一の企業が複数の市場に財やサービスを供給している場合にも生じうる。航空会社は複数の路線で同時的に輸送サービスを供給しているので,それぞれの路線を市場として定義すれば,この問題が生じうる。つまり,ある路線(市場)で競合している航空会社同士が,また別の路線でも競合するようなときに,他の路線での報復を恐れて,運賃を下げるなどの攻撃的な振る舞いを自重するかもしれない。このように,企業同士が異なる複数の市場で対峙するような状況を多市場接触(multimarket contact:MMC)と呼ぶ。MMCを生じている企業たちはお互いに報復を恐れるあまりに,自発的に反競争的な態度をとるようになるかもしれない。すなわち,MMCは暗黙の共謀を生む可能性があると考えられる。実際にそうした現象が見られることは,多くの実証研究によっても示されている。特に航空輸送産業では,多くの先行研究によって,MMCの程度と共謀的な市場状態(運賃水準が高い,便数·座席供給数が少ない)に相関のあることが'報告されてきた。市場全体での接触か,アライアンスや費用構造の違いを考慮した接触かといつたMMCの程度の測り方はいくつか提案されているが,MMCの程度と共謀的な状態の相関関係は共通して示されている。 |