摘要: |
前号では,クズという植物の成長がとても速いというお話をしました。つるを他の樹木にからみつかせて,自身だけでは到達できない高さにまでよじ登り,そこでたくさんの大きな葉を広げます。クズに覆われた樹木は,光合成するのに十分な太陽光を受け取ることができなくなります。私が調査を行っている圏央道脇のクズ群集も,元々は人の手でコナラやシラカシが植えられていた場所でした。このクズ群集の内部の相対光強度(外部の光強度を100%とする)を測定したところ,1%に達しませんでした。暗い森の中でも生きていける植物,いわゆる陰樹でさえ,この暗さでは生きていくことが困難です。このため,クズが侵入した場所に元々生えて(植栽されて)いた他の植物は枯れてしまい,新たに芽生えた植物が大きく成長することもほとんどありません。大変な労力と時間をかけて育てた木々がクズに枯らされてしまうのは,道路や公園の緑地を管理する方々にとって,経済的にも心理的にも大きな痛手であろうと思います。自然の植物群集にクズが侵入した場合も,元々そこにいた植物のほとんどがクズに置き換わってしまいます。群集の構造は単調になり,生物多様性や生態系機能が低下することが危惧されます。クズだらけの薮は外観が良くなく,内部は真っ暗で不気味です。マルカメムシなどの昆虫がクズに群がっているのをよく見ますが,クズが繁茂するとこれらの昆虫が増え,周囲の畑の作物に害を与えると考える人もいるようです。前回説明した定義に照らし合わせると,クズはまがいもなく「雑草」といえそうです。 |