摘要: |
サンフランシスコの北100kmほどのところに,ナパ·バレーというワインの産地がある。かつて,ナパは日照が強すぎるために,クルミやアーモンド等の果樹栽培,あるいは放牧しかできないような貧しい農村であった。しかし,その気候がワイン生産に適していると分かってから,ナパは全米で最も裕福な農村の一つに変貌した。2006年から2011年まで,私はナパでワイナリーの経営に携わっていた。どこまでも広がる,完璧に管理されたブドウ畑の傍らをドライブしながら,このように豊かで美しい景観はいかにしてできるのか,とつらつら考えた。ワイン好きの方はご存知だと思うが,カリフォルニアワインの品質は,今やフランスやイタリアを凌ぐほどになっている。その理由として,安定した地中海式気候に恵まれているのはもちろんである,それ以外に考えられるのが,メキシコ人労働者の存在である。ブドウ畑の仕事は重労働である。新大陸のワイナリーでは,機械化が進んでいるところが多い。しかし,高品質のワインを作るためには,鋤簾で雑草を取る,葉を落とす,摘果する等,熟練した作業員による手作業が必要で,やはり手間がかかるのである。気候も栽培技術も大切であるが,それらはいわば理論であり,実際に理論を実践しているのは,メキシコ人労働者たちであった。 |