摘要: |
世界は今や地球沸騰時代と呼ばれる深刻な気候危機に直面しており,気候変動の課題には喫緊の対応が必要となっている。欧州連合の国際的なリーダーシップは,大胆な域内行動と手を携え,パリ協定にのっとり2050年までに気候中立(温室効果ガス(以下「GHG」という)排出実質ゼロ)な欧州という目標を達成するため,発揮されている。欧州は今後10年間の野心を高め,気候とエネルギー政策の枠組みを更新する必要があるとしている。欧州グリーンディールにおいて,欧州委員会は,包括的な影響評価に基づき,GHG排出量を1990年のレベルと比較して少なくとも55%削減する2030年の新しい欧州目標を提案した。この目的は欧州理事会によって承認され,国連気候変動枠組条約に伝達され,国際的な拘束力となった。欧州気候法にのつとって,これらのGHG排出削減を実現するために,欧州委員会は,必要に応じて,2021年7月までに,特に気候,エネルギー,輸送,課税の分野における部門別法の見直しをカバーする「Fit for 55パッケージ」で,関連するすべての政策手段を修正することを提案した。このFit for 55は,2030年までに55%のGHG排出削減を達成するための諸施策が盛り込まれた政策パッケージで,以下の12項目で構成されており,①排出権取引システム(EUETS),②炭素国境調整メ力ニズム(CBAM),③排出削減目標の加盟国間割当制度,④エネルギー稅指令,⑤再生可能エネルギー指令,⑥エネルギー効率化指令,⑦エネルギー部門のメタン排出削減,⑧土地利用,土地利用変化,林業分野におけるGHG排出削減等に関する規則,®代替燃料供給インフラの展開に関する指令,⑩自動車の二酸化炭素排出規則,®建物のエネルギー性能指令,@第3次エネルギーパッケージ等である。なお,②のCBAMは,欧州域内の気候変動対策を進めていく際に,他国の気候変動対策との強度の差異に起因する競争上の不公平を防止し,炭素漏れ(カーボンリーケージ)が生じることを防止するためのものである。欧州域内の事業者がCBAMの対象となる製品を欧州域外から輸入する際に,域内で製造した場合に欧州排出量取引制度(EU ETS)に基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いを義務付けるとしており,輸入品に対して炭素排出量に応じて水際で負担を求めるか,輸出品に対し水際で負担分の還付を行う,または,その両方を行う制度と位置づけることができる。 |